特定遊興飲食店の定義は風営法第2条第11項にあり
「この法律において「特定遊興飲食店営業」とは、ナイトクラブその他設備を設けて客に遊興をさせ、かつ、客に飲食をさせる営業(客に酒類を提供して営むものに限る。)で、午前六時後翌日の午前零時前の時間においてのみ営むもの以外のもの(風俗営業に該当するものを除く。)をいう。」
とされています。これを分解すると
「設備を設け」+「遊興させ」+「飲酒させる」+「深夜」
と解する事ができ、ダーツバーの場合はダーツ機を設置して客に遊ばせる(遊興させる)、それを深夜で酒を提供するならば該当するとして解釈されるケースが多いようです。しかしこれでは大きな見落としがあります。11項の最後に「(風俗営業に該当するものを除く。)」という事が書かれており「風俗営業」とは風営法第2条第1項に
「この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。」
と定義されています。各号とは1〜5号までが存在し5号の営業として
「スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る。)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く。)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)」
そもそも従前よりデジタルダーツ機は風営法上ゲーム機扱いが成されており、ダーツバーは風俗営業という事から特定遊興飲食店営業には該当しないというのが結論です。
風営法での業態の定義は風俗営業→性風俗関連営業→飲食店営業(特定遊興→飲食店)の順となっており、適用の判断をする場合は前から順次適用され、適用された段階で後ろの判定を行わないのが基本的な考え方となっています。
さて実態として多くのダーツバーは風俗営業の許可を受けていませんが、これは風営法解釈運用基準第3中3(1)イにある10%ルール(店の規模に対して遊技部分が少ない場合の措置)を適用しており風俗営業の許可を要しない扱いが成されています。ただよく誤った認識をされている方がおられますが、10%ルールを適用されて許可が不要とされた場合でも当該営業は風俗営業に変わりありません。なお許可を受けて営む場合は法第2条第2項の「風俗営業者」は許可を受けて営む者に限定されており10%ルールの適用を受けている場合は「風俗営業を営む者」として区別されます。一見同じ様にも見えますが「風俗営業者」は営業規制として法第12条〜第27条までが適用される事に対して「風俗営業を営む者」は法第23条及び第24条に限って規制されます。これにより全ての営業において賞品提供行為等は記載されますが営業時間規制等は許可を受けている営業に限って規制されている事から多くのダーツバーでは深夜営業を行っています。
となれば風俗営業でも許可が不要(10%ルール)の営業では深夜遊興させてもいいのか?という疑問が残ります。これに関して解釈運用基準による「客に遊興をさせる」では「のど自慢大会等の遊戯、ゲーム、競技等に不特定の客を参加させる行為」が該当行為に列挙されている事に対して「ボーリングやビリヤードの設備を設けてこれを不特定の客に自由に使用させる行為」は該当しない部分に列挙されています。これらの考え方は平成28年の風営法改正以前より存在し10%ルールの適用を受けているダーツバーは基本的に客が機械に料金を自ら投入しダーツを行っており深夜遊興には該当しないという考え方であり、法改正後においても特定遊興飲食店に該当する事にはなりません。
ただ、10%ルールの適用を受けているダーツバーで深夜に大会等を行って客に参加させる等する場合は特定遊興に該当してしまうのではないのかとも思えます。これに対して平成28年法改正と同時に改められた解釈運用基準第24中4(2)で
「例えば、遊技設備を用いた競技大会であって客に参加させるものを恒常的に開催するバーのように、遊技設備を用いて客に遊興をさせ、かつ、客に飲酒をさせる業態の営業を深夜に営もうとする場合は、遊技設備を用いて客に遊興をさせることにつき法第2条第1項第5号の営業の許可を受ける必要がある。当該営業は全体として風俗営業に該当し、これを営業延長許容地域で深夜に営もうとする場合には、特定遊興飲食店営業の許可を受ける必要はない。このような営業において、仮に遊技設備が少なく、客の遊技の用に供される客室の部分の床面積が小さかったとしても、第3中3(1)イの取扱いは行わず、法第2条第1項第5号の許可を受けなければならないこととする。」
とされており大会等を行うケース(遊興に該当する様なケース)では10%ルールの条件に当てはまっても風俗営業許可不要の扱いにはならず結論として特定遊興には該当しないとなります。
色々と批判される事もありますが、私自身はこの解釈運用基準を見た時に感じた事として、改めて日本の官僚の能力の高さに驚きました。ダンス規制見直しを主な目的とした法改正ではありましたが、改正後に法の中で新たに矛盾や疑問が生じる恐れのある部分を予め検討して明文化しています。ただ問題は国の官僚が目的や意味をしっかりと理解して明文化しても運用する地方自治体の警察官が全てを理解する事は現実的には難しく、現場が混乱してしまうのが現実の世界です。多岐に渡る警察官の仕事に中では風営法の占めるウエイトは僅かですし、風営法対象の中でも特定遊興の対象になる店舗は数%であり、やはり誰もが分かりやすいルールになる事が理想なのかと思います。